妖しく溺れ、愛を乞え

「春岡さん、話がある」

 そう後ろから呼び止められる。は、話だと。明日にしてくれないだろうか……。振り向くと、尾島専務だった。またアンタか。

「尾島……せんむ……」

「ちょっといいか」

「良くないです……眠いです」

「ホテルに来い。話すだけだ。大事な話だ」

 どこ?

「は?」

「いいから。これで来い」

 5千円札を握らせられる。あとからタクシーで来いということか。ホテルって、なに考えてるわけ。

「来なかったらパソコンをウイルス感染させる」

「なんですかその脅し!」

 クビにするとかじゃないの、普通。なにウイルスって。

「あの……」

「先に行ってる」

 足早に行ってしまった。


 背の高いスーツ姿は、夜の蝶たちに見送られて行ってしまった。というか、店中の女の子たちが尾島専務を見ていた。はぁ……。

 初乃さんは方向が一緒の人達とさっさと帰ってしまったし、あたしはベロベロになった支店長をタクシーに押し込んで、見送った。

 ああ、ホテルに行かないと。5千円札と一緒にホテル名と部屋ナンバーが書かれた紙も渡されていた。なんだろうこの古いナンパみたいな手法。

 これ、行く方も行く方だな。なんの話か分からないけれど。

 行く前に、飲み物を買おうと思い、すぐ近くのコンビニに入って買い物をする。水分が欲しい。すっきりするお口直しのジュースを飲みたかった。


 行きたく無くて、モタモタと買い物をする。雑誌の立ち読みもしたいし、新しいコンビニスイーツもチェックしたい。でも……行かなくちゃ。

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