妖しく溺れ、愛を乞え


「モントレまで」

 コンビニから出たところで掴まえたタクシーにそう伝えて、シートに身を沈める。
 疲れた……明日が休みだったら良かったのに。

 疲れていただけで、そんなに酔っぱらってはいない。みんなけっこうおかわりをして飲んでいたけれど、あたしは少ししか飲んでいない。眠くて、途中記憶が飛んでいるだけ。

 尾島専務はけっこう飲んでいたと思う。でも、あんまり酔っていないみたいだった。お酒、強いんだな。夜の街をすり抜けながら、ぼんやり外を見ていた。

 ちょっと時間を空けちゃったかな。もう来ないと思っていたりして。コンビニに寄ったのがいけなかったのかも。

 待ちくたびれて、寝てしまえば良いのに。あたしが来たことに、気が付かなければ良いのに。

 ほどなくしてホテルに到着。スナック出がけに飲んだ水が良かったのか、酔いは冷めてきたみたいだ。でも、早く終わらせて帰りたい。ここから出ても、帰るのはホテルだけれどね……。

 エレベーターに乗り、指定された部屋がある階で降りる。
 静まりかえったホテルの廊下。意味もなく緊張してしまう。別に、なにかがあるわけじゃないのに。

 インターホンを押す。2回。じっと待っていると、鍵が外れる音がして、ドアが静かに開いた。どうやら、寝ていなかったみたい。

 背の高い彼は、あたしを見下ろしていた。

「……お疲れのところ、すまない。入ってくれ」

「はい、疲れてます」

 憎まれ口を叩いて、専務の前を通り過ぎ、部屋に入った。どうしてこんなところに呼び出され、そしてあたしはノコノコ来たのだろう。


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