妖しく溺れ、愛を乞え
「ねぇ、うちの支店に、いつまで居るの?」

「さあな」

「期間限定でしょうけれど」

 レタスのサラダ、とっても美味しい。ドレッシングはシーザーだ。

「雅が、俺を好きになったら」
「……はぁ」

 じゃあ、もしそうなったら遠距離恋愛になるってことじゃないの。スプーンを口に入れたままで眉間に皺を寄せた。

「きみは、それはそれは俺に愛されているということを、いい加減自覚した方が良い。じゃないと、最低最悪に呪われて、死ぬ」

「なにそれ」

 なにその冗談。パソコンをウイルス感染させられる方がよっぽど困るわよ。

「フン」

 鼻を鳴らして、パンを千切って口に放り込んだ。またそういうことばかり言うんだから。


 それからふたりでワインを1本空けた。深雪がほぼ飲んだんだけれど。黙って見ていたけれど、けっこう飲むんだもの。

 ほろ酔いになり、先にシャワーを使わせて貰ってからベッドへ入った。

 このベッドだってそうだ。ひとり暮らしのマンションなのに、なぜかふたつある。ダブルベッドじゃないだけまだ良いか……。

 あたしが来ることを想定して用意したのかな……って、自意識過剰過ぎるか。

 部屋を探さなくちゃ。なんだか地に足が着いていない感じでとても不安だし不安定だ。居場所が無い。これって住所不定っていうのでは……。


 色々なことが頭を過ぎるけれど、疲れとワインのせいで、あたしはすぐに眠ってしまった。


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