妖しく溺れ、愛を乞え
「こんばんわー」
「来たね雅ちゃん。ひさしぶり~」
「やっと来られたよぉ~!」
久しぶりに会った友達みたいに迎えてくれた。お店はいつも通りで変わっていなくて、なんだか安心する。
「ビールでいい?」
「あ、ハイ。あと、グリルチーズサンドのハーフと、スティックサラダ。お腹空いちゃった」
ビールが出てきて、まるで「飲ンデオクレヨー!」と言っているみたいだった。飲んであげるよ待ってて!
「……んあ~。美味しい」
「飲みっぷり相変わらず」
カウンターの端に座っているお客さんと、後ろの方にあるテーブル席にもお客さんが居た。
「どうしてたの? 心配してたよ」
ミミさんが店内テレビのチャンネルをニュースに切り替えながら、言った。ミミさん、10個くらいしか離れていないけれど、物知りだしニュースを真剣に見たりして、おじさんぽい部分もある。でもそこが面白いし魅力だな。
あたしが「彼氏と別れ同棲を解消しホテル生活を始める」までしか知らないミミさんに、この期間のことをどう伝えようか。
あの日、道でゲロしてたら拾われてその相手が妖怪でした。そんな風に言えたら楽なのに。言えないけれど。
「えへへ……ホテル生活からは解放されています。一応」
「そうなの? 良かった。大体、ひとり暮らしOLがホテル住まいなんてさ、現実的じゃないんだよ。お金無くなるし、気持ちもすり減るよ」
ところがいま、その非現実的な日常を送っている。秘密があるっていうのは、そわそわするし、ドキドキする。あんまり精神衛生上は良くないよね……。
「近くなの? どこ住んでるの?」
「お、大手町の方に」
「へぇ~いいところじゃない。ちょっとここには遠いかな」
「そうですねぇ。でも、大丈夫ですよ。会社からここが近いから」
深雪と暮らす前は、会社から帰る途中に寄ることが多かったこの店。でもいまはここに寄ったら家から遠くなる。電車に乗って、あとはタクシーかなぁ。飲んだあとにバスを待つのが面倒だ。