妖しく溺れ、愛を乞え
 サラダが出て来る。それをかじり、ビールで流し込む。

「元気そうで良かった」

 美味しい匂いと、アルコール。ミミさんのお店。あの日と同じだけれど、全然違う。あの日から人生が変わってしまった。

「少し、痩せたんじゃない?」

「そうかも。色々あったから……」

 色々ありすぎるくらい。気持ちも体も付いていかないもの。
 
「ああ美味しい。幸せ。ミミさんのところに来たくて仕方が無かったんだよね」

「そっか。ゆっくりしていって」

「あんまり遅くなれないんだけど……あ、チーズサンド持って帰りたいんだけど。ふたつに切って欲しいです」

「ハイ了解。誰かにお土産?」

「うん」

 言ってしまってから、ハッとする。

「あらら。良いわねぇ」

 ミミさんの誘導尋問に引っかかったことに気付く。あたし、頭悪いな……アルコールのせいか、ここに来てリラックスし過ぎている。

「雅ちゃん、割とインターバル短いね。今度一緒においでよ」

「う……」

「ビール派かしら。なに飲むのかな。一緒に住んでる?」

 姉御肌ミミさんは、ニヤニヤしながらこちらを見ている。そこで「すみませーん。マカロニチーズひとつ」とオーダーが入った。

「誰も知らないのに。必死に隠しているのに。ミミさんに即バレした」

 ビールのおかわりを貰う。

「なに、秘密の関係? 男だよね。不倫はだめだよ。不倫は」

 フライパンを振りながら、ミミさんが言った。チーズの香ばしい匂いが漂い出した

「まさか……不倫じゃないです。一緒に住んでは居ますが、あたしが転がり込んだって言うか」

 完全にアルコールのせい。口が軽いつもりは無いけれど、ミミさんなら話せる。



< 82 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop