メシトモ!
「えっ、あれ試作品なんですか? あんなにきれいなのに。そっか、これからもっとあのヴェールは素敵なデザインになるんですね」

 男性は少し目を見開いて、ゆっくりとほほ笑んだ。そして自分の上着の内ポケットからカードケースを出した。

「これ僕の名刺です。これもなにかの縁でしょうから」

 名刺を両手で受け取り、初めて男性の名前を知った。佐々木 浩司さんか。名前の上に書かれている文字を見てびっくりした。ブライダル部デザイナー。え、この人デザイナーなの? てっきり、秘書とか、営業とかだろうと思っていた。見た目が真面目な感じがしたからだ。

「その顔、僕がデザイナーで意外って思ってるでしょ?」
「はい、すみません」
「いいですよ、気にしていませんから。アパレル系の会社に就職してドレスのデザイナーをやっている男って、少ないのが現状だから。意外って思うのも無理ないです」

 失礼な反応をしてしまった。性別や肩書で物事を考えてはいけないのが私の仕事なのに。仕事中でないとはいえ、それでも自分の甘さに腹が立つ。

 佐々木さんは特に気にする様子もなく、生ビールを飲んでいた。

 名刺をいただいたなら、こっちも名刺を渡すのがマナー。名刺が入っているカードケース、持ってきてないし。あっ、お財布にも二、三枚入れていたかも。お財布の中を確かめると、思ったとおり入っていた。汚れていないか裏表を確認して、佐々木さんの前に差し出した。

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