メシトモ!
「行かないで」

 腕の力に反して、声はとても弱かった。

「佐々木さん」

「もう、大事なものがなくなるは嫌なんだ。君は居なくならないよね。君は……」

 私の首筋あたりに埋めていた顔が持ち上がった。ゆっくり動き、私の顔を近距離で見つめてくる。

 こんなに近くで佐々木さんの顔を見るのは初めてだった。

 どんどん近づいてくる顔を見つめ、最後には目を瞑った。その次に起こることは一つしかない。唇に柔らかい感触があった。

 佐々木さんの手は冷たいのに、唇はとても熱かった。アルコールをたくさん飲んだ所為かも知れない。

 唇がゆっくり離れ、そのスピードに合わせるように目を開けた。視線を合わせ、二人同時に目を閉じた。また降りてくる柔らかな感触を感じつつ、佐々木さんの背中をあやすように軽く叩いた。すると体の重みがすっと消えた。

「もう、寝よう」

 佐々木さんの髪の毛をゆっくり撫でた。張りのある少し硬い髪が指の間をすり抜けていく。

 なにも言わずに、佐々木さんは私の隣にごろんと体を横たえた。目を瞑り、少し経つと規則正しい寝息を立てていた。
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