メシトモ!
 人の体温はずるい。もっとずるいのは意識している人の体温だ。

 佐々木さんが抱きしめている所為で、私の視界にヴェールが入る。

 違う。本当は、このヴェールを拾ったときから、佐々木さんが気になっていた。

 一緒に食事する時間と比例するように友情とは違う気持ちが増えていた。でも、恋愛なんて面倒くさいって、いつも言っていたから自分の気持ちも見えなくなって、やっと見つけたら、その人には忘れられない人がいる。ほら、苦しい結末にしかならないのに。

 鏡越しに自分の顔を見た。苦しいのに嬉しい顔をしている。

 大丈夫、自惚れたりしないから。勘違いなんかしないから。

「佐々木さん」

 私の声に反応して、体が離れて行った。

「急にごめん」

「いいえ。ヴェール取るね」

「あ」と言って、佐々木さんが私の頭に手を伸ばしてきた。

 それを気がつかない振りをして、鏡に近づき自分でヴェールを外した。

「はい」
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