メシトモ!
「あ、話題のサスペンス映画あったよね。作家が小説現実の区別がつかなくなるやつ」

「それ見たいな」

 とりあえず駅に向かいながら歩いていると、前からベビーカーに乗った女の子とそれを押すお母さんが来た。

 私は可愛い子だなと思って見ていたら、その子が手を振ってきた。手を振り返すと、今度は両手で振り返してくれた。

「可愛いね。佐々木さん?」

 佐々木さんは目を見開いて、お母さんのほうを見ていた。そして「紗希」と小さな声で言った。

 お母さんのほうも佐々木さん顔を見て、表情が強張った。お母さんは横断歩道を早足で渡っていった。

 佐々木さんが一瞬、追おうとして体が前に動いた。

 あの日の佐々木さんの言葉が頭の中をぐるぐる回った。

「佐々木さん、なにしてるの! 早く行って! 今ならまだ追いつくよ」

「でも」

「佐々木さんの中で整理付いたことでも、聞きた事はあるんでしょ。言いたいことあるでしょ。今、行かないと後悔するよ。過去は変えられない。でも、納得できる思い出にすることはできるよ。早く行って!」
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