メシトモ!
 佐々木さんは「ごめん!」と言って、サキさんを追って走り去った。

 私はそのままアパートへ帰った。服も着替えず、メイクも落とさず、ベッドの上に横になった。

 あの人とあの写真の人を頭の中で比べてみた。ああ、同じ顔の人だ。

 あの人、サキって言うんだ。佐々木さんが名前を呼び捨てにしたの初めて聞いた。そりゃあ、付き合っていたら呼び捨てにするよね。しかも長い付き合いみたいだし。

 あの子、可愛かったな。サキさん、結婚してたんだ。

 自分で佐々木さんの背中を押したのに、もわもわした感情が渦巻いている。

 枕に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。これからどうなるかも、なにが始まったのかも、なにが終わったのかも、なにも分からないのに、涙が溢れてきた。

 もう会えない気がした。佐々木さんとサキさんになにかが起こることはないだろう。でも、怖いんだ。佐々木さんが、またサキさんに恋してしまうんじゃないかって。どんな理由で別れたにせよ、写真を持っていた。彼女の近況を聞いて、あんなに動揺をした。

 いろいろな感情が渦巻いて胸が苦しかった。こんな感情から溢れるでる涙は久しぶりだった。
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