メシトモ!
⑤ コインケースと先輩
 佐々木さんがサキさんを追った日から十日が経った。佐々木さんからの連絡はない。そして私からもしていない。なにを言えばいいかわからないし、なにを言いたいのかもわからない。

 仕事で疲れてアパートへ帰ると、ポストに固めの封筒がはみ出ていた。それを抜き取り、宛名を見ると動けなくなった。“佐々木幸司”の名前が飛び込んできたら。

 部屋に入り、急いで封を開けた。そこから出てきたのは二人で使っていたコインケースだった。

 律儀な人だなと思った。その律儀さは残酷だ。

 このコインケースはお互いどちらかに好きな人ができたら使うのはやめようと約束していた。これが私の手元に戻ってきたということは、好きな人ができましたという宣言だ。

 コインケースを開いてみる。中からはたくさんのクーポン券が出てきた。どの店名にも見覚えがある。その記憶には必ず佐々木さんがいた。当たり前のことだけど、それはすごく苦しいことだった。

 しばらくはこのお店に行けそうもないな、と思った。

 このコインケースがきっかけで、私の中でなにかの糸が切れた。とにかくやる気がなくなった。気力だけで仕事はできるけれど、それ以外は悲惨な状況になっていた。
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