メシトモ!
 手の甲でも涙を拭おうとしたとき、手首を掴まれた。

 近藤さんは上着のポケットに手を突っ込んで、広告の付いた未使用のポケットティッシュを出した。そして私の目の間にそれを置いてくれた。

「やる」

「ありがとうございます」

 パッケージを開けてティッシュを取り出し、涙を拭いた。

「杉山、八方塞がりって言葉あるだろ。俺さ、何年かに一回くらいそういう感情になるんだけどさ、案外、深く考えずに動くとなんとかなるんだよな。多分、八方を塞いでいるのって自分自身なんだよ。どんなことも自分でなんとかするしかないんだよな」

 ジョッキを持ち上げ、軽く揺らしてから近藤さんはビールを流し込んだ。

「近藤さん、私を好きになってくれてありがとうございます。近藤さんのことは新人の時から頼れる先輩で、尊敬できる先輩です。それはこれからも変わりません。これからも仕事仲間として、よろしくお願いします」

「なんだよ、そんなこと言わなくても知ってるし、返事はいらないって言っただろ」

 近藤さんはこっちも見ずに、枝豆をくわえた。

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