未知の世界3
そんな研修が一週間過ぎたころ、夕飯時に、幸治さんが、
「どうだ?産婦人科は。」
と聞かれ、私は一週間見てきた辛い現状を話した。
「お前、患者に同情してなんになるんだ?
可哀相な人。そんなふうに思ってどうなる?
病院に来る患者はみんな怪我や病気、障害を抱えてるんだ。
お前だってそうだろ?
喘息持ちだからって、俺がお前を可哀相そうだと思って治療したら、お前はどんな気持ちになるんだ?
可哀相とか辛そうとか、痛そうとか思う前に、医者として、治療してやれよ。」
私は何も言えなかった。
何、私は患者さんに同情してんだろう。
残酷じゃん。ひどいよね。
辛い思いしてる患者さんの気持ちが分かるなら、早く治してあげないといけないのに。
子供ができないなら、寄り添ってあげなきゃいけないのに。
「まぁ、今は現場の雰囲気や仕事の何となくの流れに加えて、どんどん知識を頭に叩き込んでいくことくらいしかできないだろうから。
無理するなよ。」
と言われて、ようやく「はい」と返事ができた。