未知の世界3
その日は大学での勉強を早めに切り上げ、6時頃に幸治さんに大学へ迎えに来てもらった。
私は幸治さんの運転で、どこに行くのだろうと思ったけど、幸治さんが何も言わなかったから、あえて私も何も聞かず、車に乗っていた。
辺りが暗くなり始めたころ、車が止まった。
車はお店の駐車場のようだ。
周りを見渡すと、そこには大きなお城のような建物のお店。
「ここは、どこ?」
独り言のように言うと、
「今日のディナーは、ここ。」
と幸治さんは言い、車から下りてお店に入って行く。
私は慌てて着いていこうと急ぐと、幸治さんは私を急がせないように止まり、私を待ってくれた。
お店の扉を開けると、そこには白いカッターシャツに黒色のベストと蝶ネクタイ、スラックスを履いたウェイターがお辞儀をして、私たちに挨拶をした。
「予約しました佐藤です。」
と幸治さんが言う。
幸治さん、こんな素敵なところをわざわざ予約してくれたんだ。
と嬉しくなった。
案内された席に行く。
静かな店内。目の前には慣れないフォーク、ナイフ、スプーン。
私が不安になっていると、それを察したのか幸治さんが、
「俺の使い方、見てろ。」
と言った。
そしていよいよ食事が運ばれてきた。
幸治さんの手元を見て、同じようにフォークを手にして、サラダを食べる。
「やっぱり器用だな。」
と言われ、照れる。
それより、なんで今日は突然こんなところに読んだんだろう。
「今日はどうしたんですか?こんな素敵なところで。」
と私が言うと、幸治さんは、
「たまにはいいと思って。」
と答える。
私の社会勉強に連れてきてくれたんだろう。
そのあと、私たちは、出された食事をたいらげた。
食事中、気になっていたことを幸治さんに尋ねた。
「今日、どうして講義に来ることを言ってくれなかったんですか?」
と言うと、
「あー、突然決まってな。
あの大学で小児の教授してる人、知ってるか?」
「はい、最近、とてもお世話になりました。」
と言うと少し驚いた顔をする幸治さん。
「そうか。
あの方は俺が研修医中にお世話になった方なんだ。」
えっ?やごな病院にみえたんだ。
知らなかった。
「教授に頼まれて、急きょな。
まぁ、お前が受講すると思ったし、いいかと思って。」
そういうことだったんだ。
講義の後、すごい人だかりだったけど、いつ終わったなかなぁ。
「講義の後、どのくらい教場にいたんですか?」
と聞くと、幸治さんは
「つまらん質問ばかりだったから、追い払って教場を後にしたぞ。」
と嫌そうな顔で答えた。
きっと電話番号でも聞かれたに違いない。
「それと、あの最後の方の患者さんの話、、、
もしかして、、、」
と聞くと、いたずらそうな顔をして、
「もちろん、お前だ。」
「もう、恥ずかしかったんですから!」
「しょうがないだろ?
脱走したのが悪い。」
「あの時は、いろいろと心の変化が激しくて。」
「その時の気持ちは忘れるな。
大人になれば、子供の時の気持ちなんてすぐに忘れる。
でも、その気持ちが分かれば、患者が子供のとき、少しでも気持ちが分かってやれるから。」
と突然医者の顔になる幸治さん。
そんな幸治さんの顔も素敵。
「それより、これからちょっと行くぞ。」
と言われ、私たちはお店を後にした。