あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
「今から現場回りするから、ガソリンカード貸して。」
佐川さんはにこやかに笑って、私に手を出す。
「いつも言ってますけど、そこの棚の中にありますから、遠慮なくどうぞ。」
私は立ち上がって、目の前にある書類ケースを指さす。
「あっ、そうだったね。」
そう言って佐川さんはガソリンカードと貸出ノートをケースから出した。
そして当たり前のように、ノートだけは向きを変えてこちらに差し出す。
「記入しておいてね。」
そう言ってガソリンカードを持って去って行った。
事務所のドアがバタンと音を立てて閉まった。
その間数十秒。
またやられた…!
佐川さんはこうやってちょっと面倒な事は私に押し付ける。
ただ、名前と日付を記入するだけなんだけどな。
私はそこに残されたノートを開けて、渋々記入する。