あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
「さっ、佐川さん、汚い所ですけど、遠慮なく上がって下さい。」
玄関を開けながら、慎は郁也に声を掛けた。
すると奥の方からバタバタと誰かの気配。
「いらっしゃい。」
そう言ってお母さんが私の顔を見て、にっこりと微笑んだ。
そして郁也の顔に視線を移す。
「佐川郁也と申します。今日はお時間を取って頂いてありがとうございます。これはつまらないものですが。」
やっぱりこの辺はしっかりした大人だ。
同じ会社でもなかなかこんな郁也を見る機会がない私はちょっと驚く。
「初めまして。萌香の母です。佐川さん、どうぞ。」
郁也はお母さんに促され、私に一瞬目を合わせてから、もう一度お母さんの方を向いた。
「お邪魔します。」
郁也はきっと緊張しているんだろうけど、そんな事は少しも感じさせない。
中で待っていたお父さんに勧められて、リビングのソファにみんなが座った。