あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
社長がはっきりした声で私の名を呼んだ。

「相原さんのファンが多いこの会社で、彼を採用してもきっと彼自身から去っていく事になるだろう。だったら最初から採用しない方が彼のためだ。」

そしてくすくす社長は笑った。

「佐川が入って来た時は驚いたけど、その後に難しい顔をして、ずっと相手を伺って居るんだもんな。あれじゃあ、相手も内心びくついていただろう。」

山崎さんも吹き出した。

「よっぽど婚約者が心配だったんだろうな。」

郁也が山崎さんを睨む。

「相原さんは気にしなくても良い。まだ面接を希望する人が居るんだからな。一通り会ってから結論を出せばいいんだから。」

社長はこれで話は終わりとでもいう様に、自分のデスクに戻って行った。

山崎さんも笑いながら、事務所を出て行った。

「佐川、時間は良かったのか。」

何気に社長は郁也に声を掛けた。

「あっ、伊藤さんを待たせているんだった。行って来ます。」

郁也は慌てて、でも私に微笑むと、事務所を出て行った。
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