あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
他の人は当たり前のように記入していってくれるのに。
するとそんな仏頂面の私の様子を見て、前のデスクに座っているパートの小夜子さんが笑っている。
もうベテランの60代の女性だ。
実は小夜子さんがずっと正社員で働いていた。
ご主人が病気で倒れて介護が必要になったために、私が小夜子さんの引継ぎをするために採用されたのだ。
それがちょうどわたしが新卒で入社した5年前。
一度退職した小夜子さんがパートとして復帰したのは1年ほど前。
その頃、ちょうどもう一人ここの課にいた先輩の山田さんが結婚で退職した。
その代わりとして、ご主人を亡くして一人で呆然としていた小夜子さんに、ここの社長が声をかけたのだ。
そうして一人になってあたふたしていた私に、小夜子さんが手伝いとして入ってくれる事になったのだ。
私のお母さんより年代が少し上になる小夜子さん。
でも気さくな人で、ここの仕事に関しては、私なんかよりずっとよく分かっていて頼りになる。