あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
郁也は山根さんにそう声を掛けた。

張り詰めていた山根さんと郁也の空気が変わった。

「…佐川さんには適わないな。じゃあ。」

郁也と私は山根さんの後姿が見えなくなるまで見送った。

「そう言えば、郁也、仕事は?」

私は思わず郁也に聞いた。

いつから待ていてくれたんだろう。

仕事が忙しいはずなのに大丈夫なんだろうか。

「…萌香。ストーカーが心配で駆け付けたのに、別の心配をさせたい訳?」

どういう事?

「まさか、山根と食事をしてくるなんてな。俺はこの一日が長くて長くてしょうがなかったのに。」

「それは急に山根さんに誘われたから。ちゃんと送ってもらうって伝えてあったよね。」

郁也が私を心配してくれているのが痛いほど分かっているのに、私はついそんな言い方をしてしまった。

「これからはなかなか時間が取れないかもしれない。こんな事でも口実にしないと透からも許可が下りないからな。」

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