あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
玄関で声がする。
前にもこんな事があった…。
私は弾かれたように立ち上がって、玄関へ急ぐ。
慌てて玄関を開けると…。
以前のようにスマホを耳に当てたまま、もう片方の手を掲げる郁也の姿。
あの時と同じ姿。
「もう…。」
私はその場にへたりこんでしまった。
「えっ?萌香、どうした?」
私のそんな姿を見て、とても驚いた郁也は私の前に同じようにしゃがみ込んだ。
ああ、こんな事もあったな。
あの時は居酒屋さんのそばで、私はビールを飲み干して、座り込んでしまった。
私の中にはいくつもの郁也との場面が浮かんでくる。
「ううっ…。」
私は手を前につき、うつむいて泣き出してしまった。