あなたに包まれて~私を分かってくれる人~

そう郁也が言いかけた時、篤弘が声をかぶせてきた。

「俺も萌香の事が忘れられませんでした。」

篤弘のはっきりしたその口調。

でもそれにひるむ事もなく、郁也は続けた。

「それは大学時代の萌香の事でしょう。今現在の萌香の事をどれだけご存じなんですか?萌香の話だと、あなたとは卒業以来お会いしていないと聞いておりますが。」

郁也のその冷静な言葉を篤弘は黙って聞いている。

私は二人を交互に見た。

「萌香はあなたとの事があった後、自分でここまで立ち直ったんです。まだ萌香の事が好きなら…、このままそっとしておいてやってくれませんか?」

虚を突かれてような篤弘の表情。

「あなたも苦しんだかもしれませんが、それに巻き込まれて苦しんだ萌香はもっと大変だったと察してもらえませんか?」

優しく語り掛ける郁也。

「萌香も苦しんでいたのか…?」

信じられないというような篤弘の顔。
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