あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
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あの後、本当にその週末に私は郁也のマンションに引っ越した。

何の支度も出来なかったのに、引っ越し屋さんはあっさりと女の一人暮らしの荷物を片付け、郁也のマンションにおさめた。

そして私は何故引っ越しの支度を出来なかったかというと…。

あの次の日に社長に事情を話すと、あっさり翌日での退職が決まってしまった。

退職日が金曜日だったのだ。

小夜子さんに引き継ぐことなんてほとんどない。

退職日の帰りに、営業課と工務課の全員が夕方に社長から特別会議として招集され、その場で私の退職が告げられた。

当事者なのに、その状況が信じられなかった。

もちろん伊藤さんと山崎さんには社長から内々で話があったらしいが、それはほんの数時間前という所だけど。。

みなさんは郁也との事を知っているわけだから、急に何かの都合で結婚が決まったのだと思ったらしい。

「俺にも黙っているなんて、がっかりだな。」

山根さんもこう言ったくらいだ。

「いえ、私は佐川さんの会社に転職するだけです。結婚は決まりましたが、こんなに急に会社を辞める必要はないんですよ。」

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