あなたに包まれて~私を分かってくれる人~
もう驚きで声も出ない。
私はただ佐川さんを見つめているだけ。
「まだ俺は萌香に肝心な事を何にも話せていない。その時間と一緒に出掛ける時間を俺にくれ。それが会社の記念品に俺が欲しい物を教える交換条件だ。」
これまた無茶な事を言ってくれる。
「どうしてそうなるんですか?」
私は諦めたように聞く。
佐川さんの様子を見ていると、こちらを見てくすくす笑っている。
「萌香、鍵の事分かっている?」
そう言って佐川さんは自分の手にある鍵をこちらに見せる。
「鍵って、私が預かったものしかないって…。」
私の不思議そうな様子を見て、ついに吹き出す佐川さん。
「萌香に鍵を渡してしまったら、俺は今朝どうやって家の戸締りをしていくと思ったの?」
だまされた。
私はとっさにそう思った。