枯れた白薔薇がもう1℃の恋をする
プロローグ
私の初恋は16歳のときなのよ。
え?お父さん??
・・・ふふ。ちがうのよ
お父さんじゃないの
そう、初恋の相手はお父さんじゃないの。
この話はお父さんにしたらダメよ?
妬いちゃうから
あれはね・・・ちょうど今の時期。
そう、こんな・・・
ため息が漏れてしまうくらい、のどかな風が吹いているときかしら?
その日、私はいつもと違うことをしたのよ。
ふふ、わたしったらそのとき
「あ~もう
わるいことがしたい。」
なんて、三つ編みおさげでいかにも優等生ですって
格好をしながら、そんなことをいったのよ?
今思えば、なんだかおかしいわよね
・・・あらごめんなさい。
なにがおかしいかちゃんと言ってなかったわね
実はこの話をした相手がね、
学校でも有名なくらいの不良さんだったの。
そうそう、お母さんその時
風紀委員で、服装チャックをしてるときに・・・
つい、ぽろっとね。
ふふ、もう信じられないこと言ったわ。
お母さんも考えなしで、つい
ポロって言ってしまった言葉だから
殴られるって思ったわ。
でもね、彼
何をあびせてきたかっていうとね
「お前ってアレみたいに枯れてんな。」
って、花壇を指差していったの。
そこにあったのは
いまにも枯れて
こんな弱い風にすら、飛ばされて散ってしまいそうな
白いバラで・・・
確信を突かれたみたいで、殴られるよりも痛かったわー・・・。
・
・・
・・・・
「でも・・・衝撃の反動でその人のことすきになっちゃったの。」
「・・・」
母は話している。
幼かった頃、父には言わないでね。
と、頬を赤らめながらいった初恋を
もう、冷たくて
動かなくなった父の手を握りながら。
シワシワの頬をなぞるように
流れる涙を
今にもこの、弱い風にとばされてしまような
丸まった背で
父の顔にかけられた
白い布を、なかったことに、飛ばしてほしい。
そして、1℃にもみたない体温を
あの頃のように、温めてほしい。
「幸子、俺の前でその話はやめてくれ」
そう、父がごねて
頬を赤らめながら自分にあゆみより怒る父を求めて・・・。
母は散ってしまった父を抱きしめるのです。
(母の涙をみたのは・・・これが最初で最後でしょう)