短編集 ~一息~
『優秀な人材』
ある会社に、絶対に間違いを出さず、しかも徹夜仕事を続けられる男がいた。
当然、営業成績も一位で営業部長になる実力も十二分に備えていた。
しかし、会社はいつまでたっても、男を昇格させようとはしなかった。
男も会社にこき使われていても構わない。むしろそれが名誉だと言わんばかりに、営業成績を更にあげ、顧客数を増やしていった。
ある日、久しぶりに様子を見にきた社長が、男の勤務時間を見て驚き、彼に声をかけた。
「君、すこし休んだらどうだ? 有休は限度日に達している。それに残業時間も労働基準法違反だ。体を壊したり、最悪の場合、過労死されたら、我が社としても困る」
男は社長の言葉を無視して、仕事に没頭し続けていた。
優しい言葉をかけたというのに聞かぬふりかと、社長は怒りで歯噛みすると、今度は耳元で叫ぶ。
「聞こえているのか。休めと言っているんだ!」
社長の剣幕を見た営業部長が、慌てて駆けつけてきた。そして、
「やめてください社長! それが彼の望みなんです! そうさせてやらないと我が社のためになりません!」
社長が驚く意見を叩きつけた。
「馬鹿なことを言うな。死なれたら困ると言っているんだ! もう彼は十分、働いているだろう。すこしくらい休ませてやれ!」
社長は営業部長の胸倉をつかみながら、彼の行いを責めた。
その時だ。ずっと仕事に熱中し続けていた男が、突然席を立つ。
これを見た営業部長が、唇を震わせながら「これはやばい」と口にした。
男はふっと思いつめたように目を閉じると、社長に向かって告げた。
「ありがとうございました」
すると、男の体が透けていったかと思うと、その場から完全に姿がなくなってしまった。
何が起こったのかわからない社長は、ただ大口を開けたまま立ち尽くすしかない。
呆然とする社長に、営業部長がようやく閉ざしていた思いを彼に伝えていた。
「彼、三か月前に自宅で亡くなっていたんです。けど、霊魂になっても、何故か仕事にきていました。生前の営業成績は二位で、いつも一位になりたいと言っていたそうです。彼が望んでいたことですし、とめる必要もない。そう思っていたのですが……」
社長は絶句した。給料を払わなくていい、永久に働き続ける、ミスもしない営業成績一位の人材を失ってしまった。
今更、戻ってきてくれと願っても遅い。代わりの人材を雇おうか……しかし、それに釣り合う者は現世には存在しないのだ。
ある会社に、絶対に間違いを出さず、しかも徹夜仕事を続けられる男がいた。
当然、営業成績も一位で営業部長になる実力も十二分に備えていた。
しかし、会社はいつまでたっても、男を昇格させようとはしなかった。
男も会社にこき使われていても構わない。むしろそれが名誉だと言わんばかりに、営業成績を更にあげ、顧客数を増やしていった。
ある日、久しぶりに様子を見にきた社長が、男の勤務時間を見て驚き、彼に声をかけた。
「君、すこし休んだらどうだ? 有休は限度日に達している。それに残業時間も労働基準法違反だ。体を壊したり、最悪の場合、過労死されたら、我が社としても困る」
男は社長の言葉を無視して、仕事に没頭し続けていた。
優しい言葉をかけたというのに聞かぬふりかと、社長は怒りで歯噛みすると、今度は耳元で叫ぶ。
「聞こえているのか。休めと言っているんだ!」
社長の剣幕を見た営業部長が、慌てて駆けつけてきた。そして、
「やめてください社長! それが彼の望みなんです! そうさせてやらないと我が社のためになりません!」
社長が驚く意見を叩きつけた。
「馬鹿なことを言うな。死なれたら困ると言っているんだ! もう彼は十分、働いているだろう。すこしくらい休ませてやれ!」
社長は営業部長の胸倉をつかみながら、彼の行いを責めた。
その時だ。ずっと仕事に熱中し続けていた男が、突然席を立つ。
これを見た営業部長が、唇を震わせながら「これはやばい」と口にした。
男はふっと思いつめたように目を閉じると、社長に向かって告げた。
「ありがとうございました」
すると、男の体が透けていったかと思うと、その場から完全に姿がなくなってしまった。
何が起こったのかわからない社長は、ただ大口を開けたまま立ち尽くすしかない。
呆然とする社長に、営業部長がようやく閉ざしていた思いを彼に伝えていた。
「彼、三か月前に自宅で亡くなっていたんです。けど、霊魂になっても、何故か仕事にきていました。生前の営業成績は二位で、いつも一位になりたいと言っていたそうです。彼が望んでいたことですし、とめる必要もない。そう思っていたのですが……」
社長は絶句した。給料を払わなくていい、永久に働き続ける、ミスもしない営業成績一位の人材を失ってしまった。
今更、戻ってきてくれと願っても遅い。代わりの人材を雇おうか……しかし、それに釣り合う者は現世には存在しないのだ。