短編集 ~一息~
『自供』

 深夜、つば付き帽子で顔を隠した男二人が、閉店したペットショップの前で怪しい動きを見せていた。彼らは入念に周囲を確かめると、車の荷台からバールを取り出した。
 今から男たちがやろうとしていることは常識ある行動ではない。窃盗だ。てこの原理を利用して、強引にシャッターをこじ開ける。そして、わずかに口を開けた場所から入店した。店内に防犯カメラはないが、異常を感じ取った動物たちが一斉に騒ぎはじめる。
 が、男たちの行動は揺るぎない。ケージに入った動物を視認すると、唇を歪めて笑った。
「いたぞ、輸入禁止になっているやつだ。ここも全部盗んじまおう。後ろめたいことがあったら、通報しないはずだからな」
 男たちが目をつけていたのは、高額で取引される奇少動物だった。盗まれたのが密輸された奇少動物なら、店主は警察に被害届を出さない。彼らは常習犯で計画も徹底していた。
 動物たちをケージごと車に積み込んだ男が、興奮して息を弾ませる。
「やりましたね。これでうまい飯が食える!」
「ああ、これこそ完全犯罪だ! あとはこいつらを海外に売り飛ばせばいい」
 男たちは現場を後にする。
 しかし、男たちの予想を裏切るかたちで、店は被害届を出していた。

 翌日、動物を一時的に保管するために男たちが用意した疑似ペットショップに、刑事二人がきた。
「この近くのペットショップで動物が盗まれる事件がありまして、一応、確認のためにきました」
 言った刑事を男たちは快く店内へと招き入れた。男たちは刑事がきても絶対に捕まらない自信を持っていたのだ。犯行時に身に着けていた服も帽子も全て処分している。希少動物もわからないよう、着色してごまかしていた。
「ご協力ありがとうございました」
 一通り観察した刑事は、動物たちが盗まれたものだと気づかなかった。礼まで言って店を出ようとしていた。その時だ。
『いたぞ、輸入禁止になっているやつだ。ここも全部盗んじまおう。後ろめたいことがあったら、通報しないはずだからな』
 店の隅から甲高い声が響いた。声の主は大型のオウムだった。
『ああ、これこそ完全犯罪だ! あとはこいつらを海外に売り飛ばせばいい』
 オウムの流暢な話を聞いて、刑事二人が顔を見合わせる。そして、盗まれた動物たちの写真を確認した直後に、男たちに躍りかかった。
 捕まった男たちに反撃の余地はない。ただじっとして連行される時を待つしかない。
 その男たちの姿を見ながら、大型のオウムが再び口を開けた。
『やりましたね。これでうまい飯が食える!』
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