短編集 ~一息~
『めい探偵』

この作品は約1000文字の本格ミステリです。
犯人は誰なのか。そして、トリックは?
シンキングタイムに推理して楽しんでいただけると幸いです。

◆     ◆     ◆     ◆


 東京都某管轄内で殺人事件が発生した。
 まず先に異常を察知したのは新聞配達員だった。新聞が玄関の郵便受け口に挟まったまま、溜まり続けていたのだ。
 入電を受けて、刑事が現場に駆けつける。
 ドアを叩いても反応がないことから、刑事は大家を呼び出してドアを開けさせた。
 中に入ったところで、住人である金野がうつ伏せの状態で死んでいるのを見つけた。床には血の溜まりができていた。
 玄関の鍵はこたつの上にあったので、はじめは事故かと思われた。
 しかし、密室殺人の可能性も拭いきれない。
 難解な事件に刑事は頭を抱え、ひとりの男の頭脳を頼った。めい探偵の登場である。
 彼は鋭い観察眼で、いくつもの事件を解き明かしていた。
 警察が被疑者としてあげたのは三人の人物である。その人物を前に、めい探偵は語る。
「お呼び立てして申し訳ない。あなたたちに伝えなければならないことがあります。金野さんがお亡くなりになりました」
「死んだだと?」
 訊いたのは被疑者のひとり、黒澤という男である。被害者から金を借りていることから、動機は十分にあった。
「いつ死んだんだ。どうして……」
 次に灰田という男が唇を震わせる。被害者とは旧友であり、よく酒を酌み交わしていた。
「あの人がそんな……誰に殺されたの?」
 両手を口で押さえながら崩れ落ちたのは、被害者の愛人の白鳥である。
 全員が被害者とは親密な関係にあるのだが、アリバイがない。誰が犯人であってもおかしくはない。しかも密室殺人だ。
 これをめい探偵は、この読み切り短編で解決しなくてはならない。(作者都合により)
 めい探偵は悩んだ。どこかに謎が隠されているはずだ。
 犯人は誰か? 密室殺人のトリックは――。
 めい探偵のシンキングタイム開始。(みなさんも犯人をお考えください)

 彼らにはアリバイがない。動機があるのは黒澤だが……。
「黒澤! そうか」
 めい探偵は黒澤を見る。三人の姓名に気づいたのだ。
 警察用語で犯人は黒という。被疑者は黒澤と灰田と白鳥。
 ということは、犯人は――いやいや、そんな馬鹿な推理はないと首を振っためい探偵。
 そして、あることを思い出して口にした。
「そういえば俺……男が殺されたって言ったっけ?」
 めい探偵の何気ない一言で事件は解決した。うなだれたままの犯人を、刑事が連行していく。
 彼は迷探偵。度々こういうことがある。事情聴取で全てがわかれば万事解決だ。
 そう、誘導尋問は探偵ものにおける常套手段。失言した犯人が悪いのだ。
 迷探偵は息を吐くと呟いた。
「後で密室殺人のトリックを犯人に訊こう……」

◆     ◆     ◆     ◆

連行されたのは誰か。密室トリックの謎は――
シンキングタイム前でわかった方は、上級ミステリー者認定です。
(↓答えは下)


・犯人は白鳥。
めい探偵は「~金野さんがお亡くなりになりました」と言っているので、殺されたとわかっているのは犯人のみ。
「あの人がそんな……誰に殺されたの?」のセリフから、犯人は白鳥だとわかる。

・密室殺人のトリック
密室と思わせておいて、じつは密室ではないというトリック。
>新聞が玄関の郵便受け口に挟まったまま、溜まり続けていたのだ。
新聞受けから釣り糸によるトリックが可能。

【解説】
密室トリックの『古典』のひとつで、『糸と針のトリック』といわれているものです。
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