短編集 ~一息~
【短編集41~60】
『打算と誤算』

 そこに光があるというのなら、天井から吊るされたオレンジ色の電球だけ。
 ひとりの科学者が地下室で人類史上初となる、ある生物の創造を成功させた。
「これこそが最高の容姿体型を持つ、女性型フランケンシュタインだ!」
 著書にある「フランケンシュタインの怪物」は男で容姿が醜かった。
 科学者はその逆を追求したのである。すなわち、怪物を魅力的な女性にする。
 同時に利点も追求した。人間と同等の知性と優れた体力。
 更に科学者は、物語の中のフランケンシュタインの怪物を教訓に先手を打った。
 彼女の伴侶を用意することである。
 孤独な自分に伴侶となる仲間を創造してほしい。その願いを科学者に叶えてもらえなかった怪物は、怒りに任せて科学者の妻と子供を殺している。
 妻と子供がいない科学者であったが、周囲の者を犠牲にしてしまったら意味がない。
 今後のことも考えた見事なまでの対策。そして、半永久的に生きる魅力的な女性の怪物。誰もが驚嘆し、自分を天才と持てはやすであろう。
 富と名声で築き上げた人生像を脳内で構築ながら、科学者は女性型フランケンシュタインを覚醒させるレバーを降ろした。
「さあ起きるのだ! そして、我が為に動いて働け」
 電撃を受けたかのように立ち上がった女性型フランケンシュタインは、魅惑的な瞳で科学者を見た。
 それもそのはず、世界中の女優から選抜した新鮮な死体を怪物の体としたのだ。魅惑的でないわけがない。
 このレベルに達するまで、どれほど苦労したことか。
 科学者は熱いものが込みあげてきたのを感じながら、瞼を拭った。
「苦節五十年……ようやく、私の思いが通じた。恋もせず妻も迎えず、先の見えない発明生活も今日で終わりだ」
 科学者は真剣な表情になると、女性型フランケンシュタインを見つめた。
「さて、説明しようか。私が君の生みの親だ。君は二度目の人生を得たのだ」
 要領を得ていないのか、女性型フランケンシュタインは科学者を見つめたまま動かない。人間並みの知性はあるはずである。眠っている時の脳波も確認済みだ。
 更に科学者は続けた。
「驚くのも無理はないな。しかし、安心したまえ。君の人生は私が保証しよう」
 科学者は懐に隠してあったものを取り出すと、女性型フランケンシュタインの目の前に突き出した。
「この下着をつけてくれ、そして私と結婚してくれ! そして夜は二人で――」
 そこで科学者の声は途切れた。女性型フランケンシュタインの渾身の一撃を貰ったのだ。
 なるほど、伴侶を用意したのはいいが、彼女には選ぶ権利があったわけだ。
 完璧を追求したのが仇になるとは――。
 人間並みの知性は必要なかったのではないかと反省しても、起動してしまった今では手遅れとしか言いようがない。
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