短編集 ~一息~
『怪獣』

 地球にはヒーローが存在する。
 そしてヒーローは地球の平和を守るため、大暴れする巨大怪獣に戦いを挑むのだ。
 今週も怪獣が現れた。突如、街中で大暴れをはじめた怪獣を前に、人々は成す術もなく逃げ惑うしかない。
 破壊の限りを尽くした怪獣は、今度は都市部に狙いを定めると、足元にある建物に構うことなく闊歩しはじめた。
 まるでドミノ倒しのように倒れていく高層住宅、踏み潰される高級車。電線を体に巻き付けながら進む怪獣は、紫電が飛び散っても痛みを感じない様子だ。
 その時、子供の泣き叫ぶ声がした。親とはぐれて、逃げ場を失ってしまったのだ。持ち上げられた怪獣の巨大な足の影が、子供を覆い尽くす。
 まさに絶体絶命である。
 その瞬間、ヒーローが上空から姿を現して着地。怪獣に攻撃を加えた。
「おおっ、ヒーローがきてくれたぞ。いいぞ、やっちまえ!」
 ヒーローの雄姿を見た人々から、歓喜の声があがる。皆がヒーローの勝利を信じているのだ。
 しかし、怪獣も黙ってはいない。すぐに立ちあがって反撃に転じていた。
 今日の怪獣もなかなかの強敵だが、ヒーローは毎週のように戦い続けてきているのだ。それに人々の応援が背中を押してくれている。
 決着はご想像通りのものだった。制限時間三分前に決着をつけると、ヒーローは最後の攻撃態勢に入った。
 必殺○ペシウ○光線だ!
 その時だった。突如、大きな影がヒーローを覆い尽くしたかと思うと、怪獣が二体、降下してきた。倒した怪獣よりも一回りは大きい二体だ。
 そして倒れていた怪獣が、顔をあげて叫んだ。
「父ちゃん、母ちゃん!」
 叫びが終わるよりも早く、ヒーローを睨んだ母親怪獣が持っている手提げバッグを振りあげる。
「うちの子に何するのよ!」
 強烈な一撃を受けたヒーローは、轟音を立てながら倒れ伏した。人々は倒れたヒーローの姿に何も言えないまま硬直するしかない。
 そんなヒーローと人々の反応に構わず、怪獣の母親が言い放った。
「地球が子供のよい情操教育の場と聞いてきたけど、それは大きな間違いだったわ。うちの子の教育方針は自由と破壊ですの」
 続けて怪獣の父親も口を開いた。
「そうだな。お前のような奴に、我が子は預けられん。うちの子は違う星で自由に育てることにしよう」
 言って怪獣親子は宇宙船を呼び出すと、体を縮小化させて乗りこんで彼方に消えた。
 見事に怪獣を追い返したヒーローに、ちょっとした拍手が送られる。
 ――が、今日だけはヒーローが受けたダメージは大きかった。
「なんで、俺が悪者みたいになってるの」
 民衆の「ありがとう」という慰めに近い言葉が、泣きながら空を飛んだヒーローの背中に優しく掛けられていた。
 かくして、地球の平和は守られた。
 来週のヒーローは怪獣をどう打ち倒すのか――。
 時代は変わり続けているので、今後の展開は変わっていくのかもしれない。
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