短編集 ~一息~
『間違い』
今回のお話は間違い探しです。『 』のセリフのなかから間違いをお探しください。
◆ ◆ ◆ ◆
ある研究室で代表者の男がレポートまとめようとしていた。内容は部下たちとともにようやく辿りついた、数学難問の解答である。
こういった未解決難問には、高額の懸賞金がついていたりする。
魅力的な上に、自分たちの頭脳の高さを証明できるチャンスだ。
部下たちが完成させた解答資料を前に、男は自分の思いも加えてレポートを綴っていく。
ところが代表者は順調に動いていた手をとめた。
部下たちのレポートを見て、呆れてしまったのだ。
「計算式は完璧なのに、説明部に間違いがあるじゃないか」
男は腹が立って赤ペンで修正した。これで部下は反省するだろう。
しかし、修正すると全てが気になってくる。文章の流れも覚束なかったり、納得できるものだとはお世辞でも言えない。
「こういったことは再教育しないと……」
『一パーセントでも万が一ってことがあるんだ』
注意文に思いついた言葉をそのままを書きこむ。
他の部下たちのレポートにも、気に入らない点があった。
数学者であっても間違いがあるのは許されない。
代表者は苛立ちを感じ、思ったことを叩きつけるように書きなぐった。
『ゼロの確率でも、踏みはずしたら数百倍の恥になるんだ』
『段階を怠るな。ナナからシチ、ハチ、キュウは基本だろ』
気に入らない部分は赤ペンで修正。部下の考えは根本的に間違っていると、自分が思ったままに注意文を続けて書く。
翌日、代表者の男は、部下たちに最高の教授をしてやったと満足しながら、レポートを一から書き直すように言って返した。
渋々、席に戻ってレポートを書き直す部下を見て、代表者は自分の権力を認識する。
これで、俺たちの未解決難問解答資料は、全ての者に理解されるであろうと――。
代表者は自分を誇らしく思いながら研究室を後にした。風を切るように颯爽と廊下を歩き、自分の能力の高さに鼻を高くした。
代表者が出ていった研究室内で、部下たちは返されたレポートの見せ合いをしていた。
お互いの間違いを確認すること、それと――。
「単純な間違いをしているのは誰だよ。自分は誰よりも完璧だと思っているんだろうな」
「そうだな。このことは黙っておくか。それにしてもこれはないな……」
「ああ、数学者が肝心な数字を間違えているなんて、笑い者だよ」
部下たちは、自分たちだけで未解決難問に取り組んだほうがいいなという結論に達して、代表者の間違いに呆れるしかなかった。
代表者が書いた文章には、部下たちが記した三か所の取り消し線が引かれていた。
◆ ◆ ◆ ◆
代表者の間違い
(答えは下↓)
『一パーセントでも万が一』→一パーセントは百分の一。万が一にはなりません。
『ゼロの確率でも~数百倍』→ゼロは何倍にしてもゼロのまま。
『ナナからシチ、ハチ、キュウ』→7が二つ並んでいます。
今回のお話は間違い探しです。『 』のセリフのなかから間違いをお探しください。
◆ ◆ ◆ ◆
ある研究室で代表者の男がレポートまとめようとしていた。内容は部下たちとともにようやく辿りついた、数学難問の解答である。
こういった未解決難問には、高額の懸賞金がついていたりする。
魅力的な上に、自分たちの頭脳の高さを証明できるチャンスだ。
部下たちが完成させた解答資料を前に、男は自分の思いも加えてレポートを綴っていく。
ところが代表者は順調に動いていた手をとめた。
部下たちのレポートを見て、呆れてしまったのだ。
「計算式は完璧なのに、説明部に間違いがあるじゃないか」
男は腹が立って赤ペンで修正した。これで部下は反省するだろう。
しかし、修正すると全てが気になってくる。文章の流れも覚束なかったり、納得できるものだとはお世辞でも言えない。
「こういったことは再教育しないと……」
『一パーセントでも万が一ってことがあるんだ』
注意文に思いついた言葉をそのままを書きこむ。
他の部下たちのレポートにも、気に入らない点があった。
数学者であっても間違いがあるのは許されない。
代表者は苛立ちを感じ、思ったことを叩きつけるように書きなぐった。
『ゼロの確率でも、踏みはずしたら数百倍の恥になるんだ』
『段階を怠るな。ナナからシチ、ハチ、キュウは基本だろ』
気に入らない部分は赤ペンで修正。部下の考えは根本的に間違っていると、自分が思ったままに注意文を続けて書く。
翌日、代表者の男は、部下たちに最高の教授をしてやったと満足しながら、レポートを一から書き直すように言って返した。
渋々、席に戻ってレポートを書き直す部下を見て、代表者は自分の権力を認識する。
これで、俺たちの未解決難問解答資料は、全ての者に理解されるであろうと――。
代表者は自分を誇らしく思いながら研究室を後にした。風を切るように颯爽と廊下を歩き、自分の能力の高さに鼻を高くした。
代表者が出ていった研究室内で、部下たちは返されたレポートの見せ合いをしていた。
お互いの間違いを確認すること、それと――。
「単純な間違いをしているのは誰だよ。自分は誰よりも完璧だと思っているんだろうな」
「そうだな。このことは黙っておくか。それにしてもこれはないな……」
「ああ、数学者が肝心な数字を間違えているなんて、笑い者だよ」
部下たちは、自分たちだけで未解決難問に取り組んだほうがいいなという結論に達して、代表者の間違いに呆れるしかなかった。
代表者が書いた文章には、部下たちが記した三か所の取り消し線が引かれていた。
◆ ◆ ◆ ◆
代表者の間違い
(答えは下↓)
『一パーセントでも万が一』→一パーセントは百分の一。万が一にはなりません。
『ゼロの確率でも~数百倍』→ゼロは何倍にしてもゼロのまま。
『ナナからシチ、ハチ、キュウ』→7が二つ並んでいます。