短編集 ~一息~
『居候』

 男は一週間前に知り合ったばかりの居候と食事をはじめると、料理を載せた皿を前に、もたついている彼を見ながら、深い息を吐いた。
「……お前と会った時には、すごく興奮したんだけどな」
 言った男は、居候が転がしたグリーンピースを拾うと、ごみ箱に投げ捨てる。
 見事にゴミ箱に入ったグリーンピースを見て、居候は興奮したように激しく拍手した。
「別に、感動することでもないだろう。むしろ俺は、お前が見せてくれた発明品の数々に感動したよ」
 そう……男が居候を快く受け入れたのには、彼が持つ発明品に魅力を感じたからだった。
 自分を完璧に防御してくれるバリアを張る機械。動物の言葉がわかる翻訳機。自分がどんな病気になるか知らせてくれる予告診断機。
 出会った時に見せてくれたのは、現代では考えきれない高度な品物ばかりだったのだ。
 居候は、品物を手にして喜んでいた男に向かって、「もっと見せてあげるから、僕を君の家に住ませてくれないか」という条件をつきつけてきた。
 そして、こんなに素晴らしい物を、たくさん見せてくれるのなら喜んでと、男は二つ返事で了解したのだ。
 ところが、一週間も経てば居候の欠点が見えはじめてきた。とにかく何もできない。靴も一人で履けなければ、服を脱ぐことすらもできない。
 例えるなら、赤ん坊と同等に手がかかるのに、大人の体で言葉が話せる二足歩行の人間、としか言いようがなかった。
「出て行ってくれと言っても、そうはいかないんだろうな。だってお前の帰る手段は、なくなってしまったんだろう?」
 居候は首を縦に動かした。遠い目をしながら、庭にあるポンコツの山を見る。
「ああ、タイムマシンは壊れてしまったからね。仲間が助けにくるまでは帰れないわけさ」
「そうだな。お前が未来からきたと聞いて、はじめは信じなかったが、俺は発明品を見て、嘘じゃないと確信したんだ。だけど、何もできないなんて話が違うぞ!」
 言って男は、食事をスプーンの上に載せると、居候が開けた口の中に入れてやる。
 満足そうに食事を飲みこんだ居候は言った。
「だって未来では、起きるところから下の世話まで、みんなロボットがやってくれるんだ。仕事も家事もロボットがみんなやってくれる。僕たち人間は彼らを管理しながら、趣味だけを楽しんで、動く必要もないわけさ」
 動くこともできないほど太った体の居候が、得意そうに言う姿を見ながら男は呟いた。
「じゃあ訊くよ。それって、進化っていうのかい? それとも退化っていうのかい?」
< 5 / 89 >

この作品をシェア

pagetop