ラヴィアン王国物語
(誰が上玉よ! 王女を娼婦扱いで売り飛ばすなんて! お兄に言いつけてやる!)

 スメラギはアイラに反論の隙も与えず、ぐいとアイラの腕を引き、境界線の×印を飛び
越えた! 男がゆっくりと立ち上がった。

(�あくび王子�だ。さっきは顔、見えなかったのよね、眩しくて)

 すちゃっとスメラギがあくび王子の前に膝をついた。

「どうよ、王子。あんたのハレムに一匹。毛色が違うし、イキがいいですぜぇ?」

(あたしは獲れたての魚か! 馬鹿スメラギ!)

 太陽が蔭った下でがっしりとした足腰が動いた。ぱち、とあくび王子の眼が開いた。
 ——あくび王子は顔を顰めていた。太陽を振り仰いだ様子を見た限りでは、眩しいか、
暑いかで大層な不機嫌の様子。
 光を一杯携えた目に、どきりとアイラのチッパイが高鳴った。

「何、こんなのって……ない……眩しい」

 砂漠育ちの焼けて乾ききった髪。爛々と輝いているが、眠そうになる眼に怪しい魔力す
ら感じる。眼を反らせず見ていた自分自身の状態に、アイラはようやく気付いた。

(こら! ヴィーリビアでは王女と呼ばれている身分で、奴隷買いの王子に見惚れるな。
相手は人の国の宝石盗んでしれっとしている大国の王子!)

 光の中、ラティーク王子もしばしアイラを見詰めていた。が、手はさわさわとアイラの
髪、頬、固まっているをいいことに、チッパイ、腰、シリの検分を始めている。
 視線が絡んだ。また身動きが出来なくなった。最後にラティークはアイラの腰骨をもみ
もみやって、指を鳴らした。声もよく通る。歌うようなよく響く上滑りの声音だ。


「買った。アリザム! 代金二倍に上乗せで。確かに上玉だ。いい体している」


(……なんだ。自分の知らん間に見惚れる)

「存分にシリ、叩いてやってくだせぇ」
とスメラギは「任務完了!」とアイラに向けて、ビシッと親指を出した。

(むしろ、スメラギのシリを心ゆくまで叩きたい! 今度逢ったら絶対に叩いてやる)

「アリザム、値を十倍にしよう。シリを叩けるとは何という商品だ」

「ラティーク王子。奴隷に出す金額ではないと思いますが。馬鹿王子だと、語りぐさにな
ります。聞いていませんね」

「ではこれで。今からこちらに引き渡しだ、商人。早々に発ったほうがいいよ」

 守銭奴スメラギは「へへぇ、まいど!」とさっさと船で離れて行った。
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