ラヴィアン王国物語
 アイラの見開いた眼に気付き、アリザムは「おまえ風情に説明は不要だが」とでも言いたげな横柄な説明をしてくれた。

「この宮殿の最奥。ラティーク王子は第二宮殿の主だ。王宮は三つ。本殿、第一王子の宮殿、そして我が主の非常に趣味の宜しい第二宮殿」

「三つもあるの? ここだって相当広いのに!」

(まずい展開だ。第二宮殿に放り込まれたら、レシュも、コイヌールも探せない!)

 アイラは掌を見せて、首を振った。

「王子の宮殿なんか行かない。あたしは、奴隷として来たの。お仕事ちょうだい」

 アリザムは「何だ今頃」とでも言いたそうに軽蔑の一瞥を投げつけた。

「奴隷商人の売り文句が本当であれば、それが貴女の役目だ」

(スメラギ! とんだ設定で売りつけてくれて! 覚えてなさいよ!)

 素早く扉を開け、アリザムは憤るアイラをさっさと部屋へ押し込んだ。
(え?)と思う間もなく集まっていた女官がにじりよじりアイラに近づいて来た。

「ちょっと、くすぐったい! やめて! あっはははははははは!」

 着替えさせられ、白粉を叩き込まれ、芳香を吹っかけられて、今度は廊下に「いってらっしゃいませ」とばかりにぽいと引き出された。呆然自失で見下ろせば、立派な赤いトーブに髪を大胆に結われている。ハレム参加の格好に変わっていた。ラヴィアンの女官、恐るべし。

(ああもう、こんな暇はないのっ! 命令かよ、感じ、わる!)

 期限は限られている。親友と秘宝を見つけ、民を逃がす。やるべき事項はてんこもり。
砂漠の熱射病王子と懇ろになる暇はないのに。
 
「では行きましょう。第二王子のハレム部屋へ」

 憮然としているアイラの横をアリザムがさっさと素通りした。慌てて後を追った。

★★★

(なんだろう、この色合い……第二宮殿とは趣味の悪さの巣窟?)

 辿り着いた第二宮殿は金銀ギラギラ、時折赤に緑で染められている。派手もここに極ま
れり。噴水まで金銀。お金大好き守銭奴スメラギが喜びそうな色合いだった。

「美しい庭園だったのですけどラティーク樣が金色にしてしまい……」

 女官が残念そうに口にし、はっと顔色を変えた。「なんでもありません」と視線を逸らし、
長い礼服を引き摺って歩き去った。
 アイラは時折眼を踊らせては、回廊を進んだ。見れば見るほど極彩色で高級そうだ。
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