ラヴィアン王国物語
 泥だらけのサシャーの顔にアイラは首を振った。


 ——さっさと皆と親友を探し、秘宝を取り返してこんな場所、とっとと出て行ってやる。



「サシャー。魔法なんか、蹴散らして、目的を達成して、ヴィーリビアに帰るよ」

 サシャーは不思議そうにアイラを見やった。

(別に魔法なんか、いらなかったんだよ。ちょっと、かっこいい、と思ったんだけどな。本当にバカ王子! 一生精霊と、仲良く遊んでいればいいんだわ!)

本心を見抜かれそうで、アイラはサシャーから、視線を逸らせた。
 子供の精霊を従えたラティークを思うと、どうにもこうにも、やるせない。だが、今日からはラティークの側でニンフとして過ごす。覚悟を決めなければ。

(目的は、果たすわ。あたしはヴィーリビアの王女だもの)

 アイラは強い視線で砂漠を見詰めた。砂が大きく巻き上がって、夜空へと吸い込まれていく。どこまでも続きそうな砂漠の向こうの祖国を思った。

 枯れた大地には水の気配はない。それでも、この砂一握りにでも、命は宿っている。

「あたしは、第二王子を探るわ。サシャーは、第一王子をお願い。気をつけてね」


 小さな巫女に別れを告げ、アイラはラヴィアンでの一歩を踏み出した。
 縛り上げた黒髪の宝石が、小さく揺れた。
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