ラヴィアン王国物語
 散々心で言い訳をして、一度は置いた、窓際のアイラ特製果物皿を持ち上げた。
 少年精霊シハーヴがひょいと顔を見せた。

「ありがと。全部落として大変になるところだった。オレンジ、拾ってくれたでしょ?」

「運んでやる」
 
シハーヴは嬉しそうに告げると、指先で小さな丸を描いた。ほどよく皿がアイラの手から浮かんだ。アイラは持っている振りをして歩き出した。皿もふよふよついてきた。

☆★☆

 流砂の音がする中、アイラとシハーヴは並んで回廊を歩き始めた。シハーヴは眠そうに眼を何度もしばしばと瞬きした。

「眠そうなところまで、そっくり。ランプに戻って休んだら?」

 シハーヴはキロ、と精霊の真っ赤な目でアイラを睨んだ。

「戻ろうにも、ラティークが、僕を呼び出しておいて、ランプに戻すの忘れて、肝心のランプぶら下げたまま出かけたんだよ! どこにいるのか見つからないんだ」

(なるほど。家を持ち出されて、戻れないんだ。精霊野放しにして何やってるんだか。ラティークは)

 ラティークへのちょっぴりの怒りを察したか、シハーヴは唇を尖らせた。

「第一宮殿を探れなんて言うんだ。虎の姿で見て来たところ。あそこ、ヤバイよ。闇の精霊がいる気配」

 甘えたな声と口調は、ラティークそのもの。

(なんだか、不憫だ。世の中にはもっと素敵な人もいるだろうに……)

 アイラは遠くに見える第一宮殿に視線を移した。第二宮殿の趣味の悪い金銀ギラギラの装飾と違って、落ち着いた色合いの、歴史を重ねた宮殿……。

「有り得ないわ。仮に闇の精霊がいるとしても、大人しく従うはずがない。それにもっと大きな資格と、強い素質が必要なはずよ」
「人間の決めた資格だろ。ぼくらには本来無関係。いつからそうなったのかな。こんな道具に縛り付けられてさ。契約なんて分からないし、ラティークがまた無理矢理で。お陰で散った仲間を探しにも行けやしない」

 風の精霊はお喋りが好きらしい。シハーヴはちょこちょこアイラに話しかけて来た。

(そうか、この子、一人ぼっちなんだ……ラティーク、分かってるのかな)

 考えて、うんざりした。ラティークは何も分かってない。シハーヴの魔法を利用しているだけで。
< 22 / 62 >

この作品をシェア

pagetop