ラヴィアン王国物語
(ああ、だめ、またムカつきが)
気分を変えようとアイラは窓に視線を注いだ。船が砂海の上を走っている。側には駱駝の群れ。海景色を見慣れているアイラには、何度見ても不思議な光景だ。
シハーヴはひょいと浮いて、アイラに自慢そうな口調で耳打ちした。
「教えてやる。相当の手練れの魔神じゃないとできないんだけど、砂を風で操作して、船のための風を起こしてんだ。えっへん。凄いだろ」
「まあ、働きものの魔神さん。魔神なんてただの伝説と思ってたけど」
「あのじーさん。現役退いて、船動かして遊んでるんだ。昔は人と精霊は仲良かったんだって、でも争いが起こって、精霊が逃げたんだって。しょっちゅう昔話」
「でも、あなたもラティークとは仲良しでしょ。一緒に魔法かけたり楽しそうよね」
「契約だからさ。主に逆らうと、酷い目に遭うんだって。大したコトはできない」
たわいもないお喋りを楽しんでいる前に、今度はわさわさと麻袋が歩いて来た。
「なんだ、あれ! あ!」シハーヴがびくついた。はずみで浮いていた皿が空中で大きく揺れた。
「象のごはんが通りますよ〜」
麻袋がピタリと止まった。サシャーが満面の笑みで顔を輝かせた。
「姫樣。わたし、象のごはんを運んでいるんですわ! これが重くて重くて」
逃げようとしたシハーヴの虎の尻尾をアイラはぎゅっと踏んだ。
「逃がさない。掃除、手伝うわね? 見なさい、どこで気を抜いたの!」
いつしか果物の皿は落下し、思う存分果物を巻き散らかしていた——。
☆★★
シハーヴがアイラに踏まれた尻尾を必死で舐めている。サシャーは、今度は食糧庫に餌を戻す最中だという。アイラはシハーヴを抱き上げ、サシャーと歩き出した。
「姫様。第一宮殿に妙な噂があるようですわ」
アイラのチッパイに顔を寄せていたシハーヴがぴくんと動いた。
「妙な噂? こっちには妙な王子さまがいるけど。大きいのと、小さいの」
「壁がね、蠢くんですの」サシャーは首を傾げて「おかしいでしょ」と続けた。
「呪いのような感じで。それに、本殿への道が封鎖されているのも気になるんです」