ラヴィアン王国物語
サシャーによると——
本来は、本殿を突っ切って食料庫へ行けるらしいが、封鎖されているので、迂回して第二宮殿の敷地をうろついていたらしい。アイラはん、と考え込んだ。
「この国、いったい誰が政治やってるの? ラティークはハレムに入り浸りだし。やっぱり、第一王子が一人で切り盛りしているのかな。身分を明かして、聞いてみようか。参考になるかも」
「んまあ! おやめになってください! ヴィーリビアの王女で、姫巫女の貴方が、奴隷として潜入したなんて明かされれば、どんな騒ぎになるか。姫様、この問題はひっそりと片付けねばならないのです。そう爛々と眼を輝かせないでくださいまし!」
「あら、爛々となんかしてないけど」
冒険心をサシャーに見抜かれて、アイラはしれっと言い繕った。
「でも、第一宮殿が呪われているという言葉は気になるよね」
「確かに……呪い、なんて古代的ですけれど」
サシャーの言葉にしばし考え込んだ。アイラは抱いていたシハーヴをひょいと廊下に置いて、目配せした。虎の姿でシハーヴは、金の瞳でアイラをじっと見上げている。
「ここにいて。もうすぐご主人様も帰って来て休めるよ。実はね、ラティークが不在の内に、調査、済ませておきたいの。邪魔されそうだから」
アイラは髪を解き、念入りにきつく縛り上げると、ポニーテールを揺らしてサシャーに振り返った。
「サシャー、行くよ。闇の呪いは深いの。絶対に触れてはいけないし、死に繋がる性質。呪われた宮殿という噂が本当なら、親友も、大切な秘宝も置いてはおけない」
サシャーは不安そうではあるが、アイラの説明を理解した様子だ。
砂風が、吹いた。
アイラは颯爽と先日かっぱらいした男服を取りに戻り、呆れ顔のサシャーと共に第一宮殿へ向かった。