ラヴィアン王国物語
 アイラは驚愕の眼差しで、虎から人型になった精霊とラティークを交互に見やった。
子供の精霊は金の眼にめいっぱい涙を溜めている。

 精霊を使役する行為は、この世界では珍しい話ではない。
しかし、子供の精霊は初めて見る。
アイラの故郷、ヴィーリビア王国にも同じく水の精霊文化がある。 
精霊を召喚するにはいくつもの規定や、資格が必要だ。重要な規定の中でも、召喚につ
いては厳守すべき事項だと『精霊召喚法』にきちんと記されている。

 アイラの国の水のウンディーネ樣の像も、それは見事な熟女であり、母である


 かつてこの世界は精霊で溢れていた。古代には人と精霊の戦いが幾つもあった。だが、
いつからか彼ら精霊は、人間と契約を結ぶ形式を取るようになった。
 子供の精霊シハーヴはだだっ子の口調でアイラを指し、腕を振り上げた。

「だから! こいつに、ぼくの魔力が通じないんだ! バカ王子!」
 ラティークはキロと虎の眼を動かした。
「シハーヴの魔力が通じない? ただのニンフだろ……仕方ないな。もう一度」

(もう一度? 冗談じゃない!)

アイラは颯爽と手を上げ、平手打ちの準備をした。
「ニンフだか、ニンプだか知らないけど、やってみなさいよ。きっっつい一発お見舞いし
てあげるから」
「おい、助けろっ! 何やら不吉な予感が」

 アイラの振り下ろした腕を焦り顔で掴んだラティークと精霊が喧嘩を始めた。

「誰が助けるか! ラティークのバカ王子! ひっぱたかれちゃえばいいんだよ!」
「っつ……」
「精霊召喚法、知っているでしょ。精霊との契約は大人の精霊のみと決まっているの! 子
供は自我が不安定だから、契約してはいけない。規律、堂々と破って!」

 頬を押さえたまま、ラティークはアイラから視線を逸らせた後、怒られた子供の表情で
アイラを睨んだ。

「召喚法? やけに精霊に事情通。精霊を扱えるは一定の王族だけだ。本当に奴隷か疑わ
しくなって来るな」

「貴方、あたしを買ったでしょうが。ハレムの奴隷として大金出して。ニンフって何?」

 冷や汗で言い逃れた。幸運な話、ラティークは「ふむ」と頷くと、ランプを軽く小突き、
アイラに向いた。ほ、と安堵したい気持ちでアイラは眼を閉じた。

 いきなり王女だとばれるところだった。気を引き締めなければ全ては水の泡。

 ラティークはアイラから視線を外し、置いてあった薔薇水を口に含んだ。

「ここでは奴隷をニンフと呼ぶんだ。ニンフとは神のお世話をする者。神とは我ら王族だ。
つまりは召使いを指す言葉だよ。風の魔法が効かないニンフか。名前は?」
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