ラヴィアン王国物語
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(幽閉? それでは、やはり、この扉の向こうにある光景は)

 ラティークの言葉で呆気に取られて、アイラは隠した唇を思わず戻した。瞬間、唇攻撃を受けた。毛虫がぎょろりと周辺を見渡している。震えたアイラにラティークは笑った。
 銀糸が繋がっている。唇を押さえたアイラの手に、ラティークは手を添えた。

「あんたの姿は見えていないから安心していい。毛虫も、しばしの我慢」

(どうしてあんたに命令されなきゃならないの。なんで毛虫嫌い、知ってるのよ……)

 もう立ってやる、歩いてやる。笑い出してやる。大騒ぎして逃げてやる。思えば思うほど、体が動かなくなった。二度も重ねられた唇の熱のせいだ。

 ——また、変な魔法をかけられた。アイラは抱えた膝に顔を埋めた。

(この扉の向こうに、皆がいるかも知れないのに! 邪魔しないでよ……)

 砂漠の下には地下水がある。しかし、遠くの氷の国から何億年もかけて届く水など待てなかった砂漠の人々は生きて行くため、今すぐに水が欲しいに決まってる……!

(まず、ヴィーリビアの秘宝を盗み出す。今度は秘宝と引き替えに、水の巫女数人を手に入れる。水の精霊は自然に集まってくる。女性は子供を産める。年頃を超えた、大人の女性ばかりが攫われた理由も分かる……)

 アイラの脳裏では想像図が無限に拡がりつつあった。

(絶対、許さない。水の国の巫女は、砂漠のためにいるわけじゃない!)

 手を拳にした瞬間、「動くなよな」と階段に座ったシハーヴの声がした。

「余計な怒りや思考も止めて。その呼吸も邪魔。必死で姿を見えないように風に変えてんだ。あんたを護れとの命令だ。小さく呼吸してて」

 アイラは涙目になった。護れと言ったり、からかったり。助けに来たり。ラティーク王子はいくつもの顔を持ちすぎる。

「ラティークに何かあれば、ぼくも傷つく。ぼくとラティークは終身契約なんだ。違反すればどっちも世界から弾かれる。あ、ラティークが背中、向けたよ」

 ラティークは背中を向けたと思うと、あっという間に姿を消した。

「あいつ逃げ足が速いんだよ。風みたいだろ。……もういいよ、アイラ」

 声と共に、アイラは大きく息を吐き出した。体が一気にくたくたになった。

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