ラヴィアン王国物語
 指先にさっき剥がした闇の精霊のカス。

「このやろ、ここにいたか!」

 とばかりに張り付いて、爪にチクチクと嫌がらせをしてきた。よくみると、毛虫とは違う。
 
 シハーヴはくるんと宙返りして、虎に戻ると、アイラの腕に向かって飛び込んできた。
 小刻みに揺れた毛並みの丸くなった背中を、アイラはそっと撫でた。

「ごめんね。うん、嫌だって言ってた。でもラティークに知らせてくれたんだね」

 緑の虎を抱いて、アイラは扉を見詰めた。

(求めていた結果があるかも知れない。それなのに、あたしには、何も出来ない……真実を知ることすら出来なかった……)

 悔しさを噛み締めるアイラの前で、散らばった闇の精霊のカスがまた集まって扉に張り
付き、アイラに向かって上半身を持ち上げている。

(これも契約しているのだろうか。惨めな契約……ううん、惨めは、あたしか……)

『来るなら、来やがれ、このアマ! 今度は全員でやっちまうぞ!』

 半グレ毛虫モドキ集団の精霊を相手にする元気など、もはやなかった。
 まだ、震えているシハーヴを抱いたまま、ゆっくりと階段を上がる。途中にラティーク
のランプがぽつんと置いてあった。

「役目は果たした! もう帰りたい! こんなとこ、二度と、来んな!」

 シハーヴは直ぐさまランプに飛び込み、蓋を硬く閉めてしまった。

「ありがとう。無茶して、ごめんなさい。ラティークにも、言うね」 
 
 魔力で封印された開かずのランプを抱え、外に出ると、眩しい夕陽が靜かに砂漠の王国を照らしていた。
< 32 / 62 >

この作品をシェア

pagetop