ラヴィアン王国物語

☆3☆

 ——ヴィーリビア王女は、扉の向こうを見たのだろうか。



椰子の木の揺れる音に耳を貸しながら、ラティークは、一人物思いに耽っていた。


(遅いな。姿が見られるも厄介だと先に出て来たが、迎えに行くか)


 ラティークは爪先をオベリスクに向けた。元気のない弱い足音。ややして、アイラが俯き加減で歩いて来た。地下での話が衝撃だったらしく、顔を上げようともしない。

(何か、言うべきか……?)

 アイラはラティークの姿に気付くも、無視してスタスタ通り過ぎようとした。

「助けた僕に言う言葉はないのかな? ヴィーリビアの王女さま」

 細い足首。肩も頼りない。上半身を起こし、通り過ぎたアイラの腕を捕まえた。

「これ返す!」
 アイラはシハーヴの詰まったランプをぐいとラティークに差し出してきた。

 ——ぼす。小さな拳が控えめにラティークの腹に埋もれ、小刻みに震えた。

(泣いているのか? そうだよな……)

 もしもラティークが同じ立場なら、悔しさで胸が潰れるだろう。ささやかな胸には大きすぎる事実だ。平穏であっただろう水の国の王女が、砂漠の王国の残酷さに、耐えられるとは思わない。

「アイラが、悪いわけじゃない。悪いのは、ラヴィアンの王族と、この世界だ」

 名前を初めて呼んだ。
 

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