ラヴィアン王国物語
ハレムで培った小技だが、アイラははっと顔を上げてくれた。

「この、世界……」

 アイラは指で下瞼を押さえ、砂漠を見やった。横顔は自身を責め立てている王女の表情だ。痛々しい。ラティークは低く呟いた。

「扉の向こうを、みたか?」

 アイラは首を振った。

「変な毛虫がいっぱい。集まってバカにするのよ。いつか塩振りまいてやる」
「卑怯な闇の精霊らしいが、どこから来たのか、あいつらは」
「あんただって、奴隷を買う! おんなじよ……みんな、嫌いよ……!」

 ——これ以上、何も言わないほうがいいな。

(知ればきみは耐えられない。むざむざ、哀しみの坩堝に突き落とすつもりはない)

 ガタガタ、とランプの蓋が揺れた。



�もしも、その時が来たら——�



過去に精霊契約を結んだ手には、緑のアンクが焼き付いていた。


まだ、アイラに全ては言えない。今は、まだ。



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