ラヴィアン王国物語
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 時間が経つごと、アイラの涙は薄くなった。涙が溢れ切って止まるまで、ラティークは無言で砂漠の風に身を任せていたが、アイラが着ている服に気付いた。

「アリザムの服だな。それ。トーブはどうした」
「派手なんだもの。あ、でも、宮殿についたら、脱ぐよ。ちゃんと、下に着てる」
「それは結構。ではここで、服を脱がせる行為は、我慢しようか」

 ゆっくりと歩き出すと、眼を瞠ったアイラも歩幅を合わせながらついて来た。オレンジ色のヴェールを被り始めている砂漠の夕暮れは、何層にも色が重なってゆっくりと紺に変わってゆく。空までも砂漠の色になると、世界全てが砂漠に見えて取り残されたような錯覚に陥る。

 アイラが顔を上げた。少し眼が腫れている。冷やしたほうがいいだろうと、ラティークは第二宮殿へ向かうはずの進路を変えた。

「ねえ、サシャーはどうしたの?」
「悪いが、好みにはほど遠い。後は任せて貰うと告げたら、安心して帰ったよ」
「……誰も、あんたの好みにそぐうかどうかなど、聞いてない。サシャーはね。国から一緒に来たの。あ、でも、元々第一宮殿に連れて行かれて象の世話をしてるし。ね、サシャーがヴィーリビアの巫女だって見抜かれないのかな」

 途中、本殿の近くを通ったが、門は封鎖されていた。

 ザク、と砂混じりの道を踏みしめる度に、アイラは「ねえ」と早足のラティークに駆け寄ってきた。

「さっきから、何を不安がってるんだ」
「扉の向こうに連れて行かれた民の話。貴方は知っているに決まっている。ラティーク。しかも第二王子という大層な看板持ちでしょ」

 要らん看板を持ち出されて唇を曲げた前で、アイラはまた涙を浮かばせた。

「よく濡れる眼だな」

「ヴィーリビアの民が、集められて、水、搾り取られて枯れてるんじゃないの? もしくは、全員女性で水の子供を産まされて」
 なんという、大胆な仮説。アイラの力説に、ラティークはとうとう降参した。

「そこまでラヴィアンの王族は悪どくない。ラヴィアンには様々な国から奴隷が運ばれてくる。あんたは扉の向こうを知らないんだろ」
「貴方は知ってるでしょ! だって�悪どい王族�だものね!」

(随分な言われようだ。さすがに、ちょっと怒りを覚えるな)

 ラティークは「ああ」と口元を覆い、しらんぷりで顔を上げた。

「そこを勘違いしているんだ。知らない。だから、扉の向こうを見た? って聞いた」

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