ラヴィアン王国物語
「嘘ばっかり! 貴方、「きみもあの扉の向こうにやられる」って言ったよ!」

……確かに、言った。
あの時は必死で、らしくない行動をしたと内省している。あまり真剣にならないはずが、どうしても、アイラを危険な眼には遭わせるわけには行かないと思ったのだから。嘘はないのだが、この王女は一筋縄ではいかないらしい。


(面白い。ラヴィアンの王子と、ヴィーリビアの王女。どっちが勝つかな?)

☆★☆

 しばらく、二人とも言葉を出さずに歩いた。まるで、喧嘩をした恋人同士のようだ。

 ——らしくない。あたし。元気が取り柄のあたしが、泣いてどうする。
 アイラは腕を伸ばして、元気な素振りを見せた。泣いたことは、忘れよう。

「いいわ。自分で探って真実を突き詰めてやる。ニンフの仕事、楽しいし。真実は見つけ
てこそ。あたしは勝手にやる。王女の威厳にかけて、皆を救い出すから」

 アイラは涙を浮かべて、にっこり笑った。
 ラティークは敵だ。頼っていいはずがない。

(辛いけれど、虚勢張ったほうが気持ちがラクなの)

 でも、見抜いてくれたら? 手を貸してくれたなら、どんなにか心強いだろう。

 アイラは俯いた。消えたはずの涙がじんわりと浮かぶ。体内の水が全部なくなって干涸らびたら、ラティークは後悔するのか、などと考えては唇を噛みしめた。

(言えないんだよ、分かってよ……)

 ぶるぶると腕を震わせていると、ラティークの手が伸びてきた。振りほどこうにも、あまりに撫で方が優しくて、振りほどけない。

(騙されるな、あたし。優しいに決まってる。相手はハレムの王子だ)

 俯いた上で、困惑を滲ませた吐息がした。

「僕が力を貸そう。きみに何かがあれば、ヴィーリビアの無敵艦隊がラヴィアンに押し寄せるだろう。ただし、勝手に第一宮殿などに行ってはだめだ」

(わかってくれた! ラティーク、わかってくれた!)

 アイラは嬉しさの衝動で、頭をこつんとラティークに預けるようにぶつけて呟いた。

「魔法、使わなくってもいいじゃない。もっと精霊、大切にしたら?」
 ラティークの返答の代わりに、ランプの蓋がカタンと揺れた。

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