ラヴィアン王国物語
ラティークは俯き加減で少しだけ、早足で歩き出した。

「あ、待ってよ。置いていかないで」

 アイラは先に歩いて行ったラティークを追いかけた。月が昇っている。しかし、暈を被ってしまい、輪郭はぼやけていた。 と、ピタ、とラティークが足を止めた。

耳を赤くして、しきりに唇を押さえ、片足を何度も何度も砂に擦り付けている。



「……また、魔法かけたくなるだろ。着いたよ」



 ラティークがしばらくして、足を止めた。そこには雲の合間から月光が降り注ぐ。立派な噴水があった。
 金に塗られているが、噴き上げる水は夜を透かせている。

「水の国には敵わないが、多分、落ち着くだろうと思って。細々としたものだけどね」

 言葉ではない、真摯な慰めの優しさに、言葉が出なくなった。

(……優しさが、素敵なんだ。魔法、なんかやっぱりいらないのに、どうしよう)

 嬉しがるアイラに、ラティークは軽妙に一言を投げた。



「さあ、もう第二宮殿だ。約束通り、脱いで。せっかくの理想の美乳が台無しだろ」


 からかい混じりの笑顔。ラティークは普通の、女の子をからかう男の子の顔になっていた。

(ラティークだけは、あたしを王女扱いしてない。だから、不思議なんだ)

 助けてくれたと思えば、からかったり、涙にあたふたしたり。

 本当のアイラを隠すための王女の仮面を、ラティークはそっと外して、本当のアイラを
剥き出しにする。


 絵本から出て来たような、
 
 ラヴィアンの王子様は、噴水に腰を掛けて月を見上げている。


 月が、王子と勝ち気な王女を優しく照らしていた——。
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