ラヴィアン王国物語
 勝ち気な性格も面白い上、脆いところも先日知った。
 奴隷として潜り込んだ事実も、かっぱらいの事実も、ラティークのツボに入った。何をしでかすのか分からないところがいい。

 葡萄に齧り付きながら、ラティークはにやりとした。

(なるほど。上玉、ね。奴隷商人もなかなかいい眼を持っているな)

「ともかく、僕のハレムの娘の情報を集めさせた。アリザム」

 アリザムが無言でパピルス紙を手渡し、ラティークは膝の上で、捲った。アリザムが説明を被せてきた。

「レシュという名の娘は第二宮殿にはいないと思われます。本殿の王の奴隷を探りましたが、こちらにもおりませんでした」
「となると、第一宮殿の兄貴のほうだ。アリザム、どう思う」
「どうもこうも。さて、あちらの宮殿に、私は関与できませんので。事務官に聞けば良いかと思うのですが、まず首を縦には振らないでしょうね」

 各宮殿の主同士の連絡はいつしか事務官が行う仕来りだ。第二宮殿はアリザムに一任していた。第一宮殿の事務官の顔を思い出そうにも思い出せない。眉を顰めた前で、アイラがアリザムに向いた。

「兄弟でしょ。よそよそしい」

 アイラに忽ちアリザムの目が鋭く向けられた。

「なんだ、奴隷の分際で。ラティーク樣。ご趣味の悪さは知っていますが、ますます悪くなったのではないですか? きちんと栄養を取らず、果物。それでは頭に栄養も」

「あ、あたしを趣味悪いって言ってるの?」

 聞き捨てならん。ラティークは靜かに言い返した。

「おまえこそ何処を見ているんだ。この美しい部屋の何処をみて、趣味が悪いと」
「わたしは、部屋は元より、このニンフにイチャモンつけたのです」

 博識かつ弁論の得意なアリザムの口には敵わない。早々に命令口調で終わらせた。

「僕の選んだ奴隷に文句つけるな。アリザム、第一宮殿のハレムはいつ行われるかを調べてくれ。アイラは兄貴の趣味とはほど遠いから手を出される可能性は低い。兄貴が黒髪、グラマラスのボンキュッボンで背が高いオンナが好きな事情は把握している」

 アイラの目がじとっとなった。ラティークの言葉のどこかが気に障ったらしい。アイラとの口喧嘩に厭きたアリザムが下がるなり、ラティークはアイラに手を伸ばした。



「頬、膨らませて。勝ち気なきみらしくないな」

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