ラヴィアン王国物語
 アイラは咄嗟に口を押さえた。

「ご病気なの?」

 と丁寧口調でおずおずと訊いた。
 ラティークは困り笑顔を浮かべ、口調を緩めた。

「病気、かどうかは分からないな。皆が噂しているよ。父は精霊との契約で成り立つこの異常な世界の、礎になったのではないかと。父とは幼少に逢っただけでね。母と引き離されてから、父の顔は見ていない。宮殿内で
家族が揃う必要もない。まして僕は第二王子。歴史を顧みれば、王位継承者にいつ殺されても不思議はない身分だよ」

 アイラは無言だった。ぽそりと「聞いてごめんなさい」と呟いた。

「謝らなくていい。決して自分が不幸だと思いたくはない。言うべき話じゃなかった。親友と、秘宝? それから民を見つけたら、速やかに去ったほうがいい。聞いてくれてありがとう。こちらも、誠意を見せよう」

「ハレムの部屋にたくさんの女の人がいたけど、全部、お相手してるの?」

 ぽそりとアイラは呟き、「いいの、今の、忘れて!」とまた背中を向けた。


 ——王女としての自尊心からか? それとも、ヤキモチ……なはずはないな。


 アイラはどうやらラティークをどこかで疑っている。
 理由は出逢った時の魔法うんぬんのからかいだろう。悪乗りし過ぎた。それはそれで楽しいのだけど。

 窓際のランプ。

 ——シハーヴなら、ハレムに入れるな。

「護衛をつけよう。ご主人様の命令だ。王女を死ぬ気で護れ。風の精霊」



「ありがとう。頑張ってみる」



 ラティークはアイラを見やった。やはり、この王女は面白い。退屈で疲れ果てたラティークの心の何処かの傷に届きそうなほど。素直で、率直で潔くて愛おしい。
 ラティークの砂漠の心に愛しさの芽がひょっこり顔を覗かせた瞬間だった。

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