ラヴィアン王国物語
☆★☆

 第一宮殿の台座に運ばれて来た葡萄の香り。


(一緒に葡萄、食べた)。


ラティークの哀しみに満ちていた会話を不意に思い出した。





(ラヴィアン王が礎になった? 父の顔を知らない? ラティークはなぜ、重要な話をあ
たしに教えてくれたのだろう? 王女だから? 何か思惑があるのだろうか)

 反芻していたアイラを踊り子が乱暴に突いてきて、アイラは蹌踉けた。

「ちょっと、ヘマしないで! 王子の御前よ!」

 踊り子たちに睨まれ、アイラは持っていた扇子を振り回した。ラティークに命じられ、一緒についてきたシハーヴは、虎の仮姿で柱の陰にいる。

(あんなに小さく丸まって。よほどこの場所が苦手なのね……)

 精霊にとって主との命令は絶対。何が在ろうと逆らえない。ちょっと可哀想。

(そういえば、ラティークは風の精霊をどうやって捕まえたのかな。子供を従えるって難しいと思うんだけど)

 ラティークはいくつもの顔を持っている。シハーヴに大切にしろと命じるのも、アイラがヴィーリビアの王女だから。




(でも、助けてくれた。今も、第一宮殿の踊り子の一群にあたしを上手く潜り込ませてくれている。優しいの、かな? いやいやいやいや。—魔法で惚れさせようとした事実は忘れやしない! ええ、忘れていません!)


 覆面踊り子の格好で、アイラはでんと舞台に立った。八人の端っこに加わった。

(なんなのよ、いったい! こんがらがらせて! 踊ってやる! 滅茶苦茶だけど)

 もにゃもにゃをぶっ飛ばすつもりで、やけくそに腰を動かして、ここぞとばかりにくねくね踊ってやった。

 アイラは覆面ごしに、ルシュディを眺めてみた。

(ラティークとは似ていないな)
 
垂れた割りに鋭い眼に、研ぎ澄まされた視線。冷たそうな口元に、形作られた端正な眉と、サラサラの黒い髪。

(ご自分が黒い髪だからか、周りの女性も黒髪……まるで動物の保護色みたい)

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