ラヴィアン王国物語

☆2★

(もうあんなに、月が高い。夜が来るの、早すぎるよ。砂漠なんか嫌いだよ……)

 とぼとぼと夜の宮殿を歩いていると、しっかりと瞼の裏に焼き付いたレシュの冷ややかな表情が浮かんでは消えた。

 アイラの不安を現すかの様に、ざわざわと椰子の木が揺れた。

 伸びたラティークの形の影がモソリと動いた。派手なサンダルの爪先が見えた。

「迎えに来た。ヴィーリビアの王女」
「まあ、ご丁寧にどうも。いいよ、奴隷扱いで」
「そういうわけには行かない。王女と知っているは僕だけだ。親友に逢えたかい」

 ラティークはレシュの事実を知っていた。だからアイラを第一宮殿のハレムに潜り込ませる計画を思いついたのだろう。
 出し抜かれたと思うと、頬にグーの怒りの鉄拳を飛ばしたくもなる。

「貴方はレシュが第一宮殿にいると知ってた。やっと見つけたのに! 親友だと思ってたの! ちらりともあたしを見なかったよ!」

 アイラに八つ当たりの拳を叩き込まれたラティークは、儚く笑った。

「僕にできることは、親友の捜索だけの様だ。無事が分かって安心してくれたらと思っただけだ。なぜ、親友なのに、そんな態度を取ったんだ?」
「……貴方とは、もう話したくない。どうせ、あんたはあたしの気持ちなんか分からない
し、理解もしない。嘘と騙しばっかり!」
「じゃあ、きみは僕を理解しているのか?」

 ラティークの言葉は、吹きすさぶ嵐のようにアイラに襲いかかった。

「砂の大国の第二王子。傍目から見れば、恵まれているように見えるだろう。

しかし、僕は実際は『災害』に怯え、砂で蠢くしかない王国の責任を負った人柱に過ぎない。

それに僕はやがて暗殺される運命だ。多分、王位継承を滞りなくするためにね」

「それ、この間も言ってたよね……いくらなんでも暗殺なんて」

「それが王族だ。僕が王冠を投げても、誰かが被らせようとする。権力は消去法だ」

 アイラは言葉を出せなかった。ラティークの双眸は僅かに潤んでいた。

「ラヴィアン王国は、暗殺を繰り返した暗黒時代を織り上げて続いている。幾度も他国の侵略に晒され、一歩出れば砂漠という過酷な自然の牢獄で死刑を受ける環境だ」
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