ラヴィアン王国物語
よく見ると、目がある。

 ぎょっろとした目がこちらを向いたが、ささっと消えて行った。

「神経に悪戯をする。タチが悪い。僕も張り付かれた覚えがあってね。最悪だ。「もう、王子なんか、僕なんか」とか嘆いたらしい。ハッ! 有り得ないね 僕は僕だろ。冗談じゃない。でも王子にも悩みはある! 逃げられるものなら逃げたい……」

 ラティークの首にチロと黒いものが見えた。「ちょっと失礼」と手を突っ込むと、二匹目の毛虫の収穫。


微妙な空気が流れた。


「……ついてた。たった一人を大切にする……素敵ね」

 聞くなりラティークはうんざりした顔になって、毛虫を遠くに放り投げた。

「冗談。たった一人では、僕の愛は溢れてしまう。受け皿は多く、たくさん必要だ」

 どうやら毛虫に弱気にされていたらしい。ラティークは始末が悪いとぼやき、アイラは頬を押さえた。本気で迷惑な毛虫モドキだ。

 微妙な空気が流れる中、無言で歩いた。第二宮殿の趣味の悪い屋根が見えて来た。ラティークは早足でハレム部屋へ向かうと告げ、名残惜しくも、別れた。

☆★☆

「行ったな」

 ラティークはアイラが間違いなく、姿を消した状況を数度確認した。

 夜風が吹き抜ける第二宮殿と、第一宮殿の間。念の為に椰子の木に身を潜めたが、どうやらアイラはちゃんと与えた部屋に向かった様子。

(やれやれ。この大切な時期に、現れたきみが悪い。付き合わせるしかなさそうだ)

 ラティークは腰のランプを外し、袖を捲った。赤銅の腕輪を翳し、声を張り上げた。


「ラヴィアン第二王子が命ずる! 火の精霊、前に降り立て!」

(アイラに知られたら、計画が白紙に戻る。時期は早いが、やるしかない)

 ラティークの眼の前に二人の火の精霊が降りてきた。真っ赤な唇が動いた。

『んーだよ。珍しいじゃん? アタシらを呼び出すなんざ。何? 戦争?』
『言っとくけど、こちとら暴れたくて機嫌悪ィぜ……』

 ラティークは唇を歪めた。

「第二宮殿を跡形もなく焼け。第二宮殿の王子の遺体もだ。暴れておいで」

 遠くから、アリザムの姿が見えた。準備完了だ。第二宮殿は間もなく燃え上がる。
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